竹宮惠子さんと仲谷鳰さんの対談

京都精華大学オープンキャンパス企画で、学長で大御所クラスのマンガ家である竹宮惠子さんと、GL(ガールズラブ)、百合マンガの「やがて君になる」が40万部売れたOGで新人マンガ家の仲谷鳰(にお)さんとの対談企画があった。京都精華大京都市営地下鉄烏丸線の終点・国際会館前からバスで10分ちょっと、あるいは叡山電鉄京都精華大前駅そばにあるが、今回はバスルートを選択する。オープンキャンパスゆえ、大学志望者が前提になっているのだが、私より年上の参加希望者もおり、戸惑いながらも「出身高校」「志望学部」といったアンケートに書き込めないことが多いまま提出し、中に入る。対談企画は先着140人とのことだが、当該教室には大学説明会が先に行われているため、ロビーで時間を潰す。非常に居心地が悪い。配布された飲み物を飲みつつ時間を潰し、対談開始30分前に教室に向かうと待機列ができていた。不安になるが、まあ140人もいない。やがて教室が空き入室する。普通の平らな教室で3人掛けテーブル席に座る。ノートをとるには絶好の位置だ。

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今回の対談の主題は恋愛マンガを創作するということである。竹宮惠子さんは「風と木の詩」で、今でいうBL(ボーイズラブ)。つまり少年同性愛を描いてタブーを犯し、マンガ表現を新たな地平に導いた。やがて二人が入場する。竹宮惠子さんはいかにも教育者然とした威厳のある上品ないでたちである。一方仲谷鳰さんは中性的で頭が切れそうな人である。京都精華大にはマンガ学科もあるが人文学科卒。大学サイドの司会が話を進める。まず創作のもとになった選考作品について、両者が4つのジャンルに分けて例を挙げる。

竹宮惠子さんは、「映画」で「時計仕掛けのオレンジ」「2001年宇宙の旅」など、教養小説で「高慢と偏見」、マンガ・アニメで「西遊記」、詩で「リルケ寺山修司コクトー」を挙げていた。一方、仲谷鳰さんは、ゲームで「ドラゴンクエスト」、小説で「星新一」マンガ・アニメで「攻殻機動隊」、バレエで「マシュー・ボーン白鳥の湖」を挙げていた。ジャンルが重ならないところで話が進み、竹宮惠子さんは「高慢と偏見」について、オーソドックスで知性的な中に迎え気味に主張が込められており、奇をてらうとか目立つ表現にこだわることなく、新鮮な主張を込める重要性を語られていた。仲谷鳰さんの「ドラゴンクエスト」について、当時は攻略本が大量に出ていて、表面に現れる物語の背後に莫大な作り込まれた設定があり、確かな世界観に支えられて作品が成り立つ、ということを挙げられていた。これについて竹宮惠子さんは、ゲームにチャレンジしたこともあったが、時間がかかるし受け身な気がするのでやめたそうだが、そういう受け取り方があったか、きっちりメッセージを受け取って創作に活かされていたのだな、という感想を述べていた。

次に「考えを表現に落とし込む」について。竹宮惠子さんは話し過ぎない、語りすぎないことだと。主人公や登場人物は自分自身じゃない。全てを説明するべきじゃないし、説明されるのって嫌でしょう、と。読者が汲んでくれるくらいでちょうどいいし、全てを説明するには解釈を狭め、読者を甘やかすことになる、とのこと。仲谷鳰さんは作者は自分の考えを伝えたがるが、キャラクターが説明を始めるとおかしいことになる。自分の言いたいことを乗せすぎない。作者自身をさらけ出すと、読者に迎合してしまう。竹宮惠子さんもサービスするにではなく、読むと考えさせる、気づきを与えるために描いている。とのこと。またテクニックとしてキャラクターを把握し、このキャラクターなら絶対に話さない様な事を話すようなキャラクターに代弁させたりするが、全体的に迎え気味にする、とのこと。

「なぜマンガなのか」。これは表現手法を選んだ理由だ。竹宮惠子さんは、若いころマンガは世間に認められたものではなかった。おやつから主食になりつつある時代に広がってきて、可能性に賭けた。一方仲谷鳰さんは竹宮先生の切り開いた道を当然のように進んだ。子供のころ絵を誉められて、マンガ家になるものだと思い込んでいた。子供のころから評論的にマンガを読み、プロを意識したが、マンガという表現方法を意識的に選択したわけではなかったと思う。

「なぜBL/GLなのか」竹宮惠子さんは19世紀末、フランス、少年同士という題材を選んだ理由として、少女マンガは旧態依然としていた。編集者と喧嘩腰で説得した。ショックは承知の上。少女読者にとっては性的なものはタブーだったが、少年同士となると自分のことじゃないから受け容れられる。19世紀末フランスというのも性的開放が進んだ時代でなおかつ第1次大戦前の抑圧的な時代でもなかった。そういう時代から逆算して舞台設定を決めた。その時代同性愛のエピソードは多い。最先端の価値観を語るのがマンガ家の務め。編集者の説得が一番高いハードルだった。また語りたかったのは人間愛。そういう意味でも18世紀より都合が良かった。一方仲谷鳰さんは恋愛物のマンガやドラマはあまり見ない。恋愛至上主義の前提が好きではない。受け容れられなかった。読みやすいのがBLやGL。友情か恋愛か葛藤がある。無条件の恋愛ではない。GLのど真ん中とも言われるし、そうではないとも言われる。どちらも当たっていると思う。前提ではなく、「恋愛を選ぶ」単純に好みというのもある。

「恋愛の描き方」竹宮惠子さんは女性の性の解放。BL史に残ると言われるが、BLだろうとGLだろうとかまわなかった。仲谷鳰さんはタブー意識とホモフォビア(同性愛嫌悪)について、恋愛物はタブーを作った方が描きやすいが、ホモフォビアをタブー要素にしたくなかった。世の中に同性愛を嫌う人はかなりいるがそういう価値観で描きたくなかった。登場人物の中には当然そういう人もいるはずだが、描写せず、その代わりに極端に自己評価の低いヒロインを用意して、人に好きになられれば、その人に失望する、という形でのタブーを設定した。王道を踏まえて新しいものを作ろうとした。基本的にBLもGLも同じというのは竹宮惠子先生と同じ。BLは作品数が多くてあらゆるものがあるが、GLはまだこれから。

「メッセージ」竹宮惠子さんは大学でマンガを学ぶということは技術以上に価値観が客観的に与えられるということ。こういっちゃなんだが、マンガ家志望者は引きこもり系というか、コミュニケーションが不得手な人が多い。それが様々な価値観に触れて、自分の立ち位置を確認できる。仲谷鳰さんは、人文学部だが、周囲に自分で表現しようという人は多かった。マンガというのはレポートに似ている。次々と情報を仕入れてまとめる。これは創作の練習になる。

「質疑応答」どうやって作品を発表したか。竹宮惠子さんは当時のタブーに挑戦したしたし、仲谷鳰さんは少年誌で少女向けの作品を発表している。

竹宮惠子さんは頭の固い編集者を力で押した。何が何でも私はこれを描きたいんだ、という意思を通した。仲谷鳰さんは同人誌で書いていてそれが少年誌の編集の目に留まり、誘われ、編集長も普通にOK出した。これを聞くと竹宮惠子さんは時代が進んだんだなあ、と感想を述べた。

連載においてどうまとめるか。竹宮惠子さんは長期連載だから、続けるために人気を落とさないよう各話盛り上げるのは大事。ただラストまできっちり話を作っておいて、どんなふうに振り分けるか。仲谷鳰さんは1作目なので試行錯誤だが、編集さんに言われるのは、コミックス1冊ごとに話をまとめて盛り上げるということ。だから各話ごと、各コミックスごとにルート、チェックポイントを設定する。もちろん最後まで考えているが、どういうルートになるのかは分からない。

最後に竹宮惠子さんにお勧めのGL、仲谷鳰さんにおすすめのBLは?

竹宮惠子さんは今回の対談の準備に当たり、様々なGLを読んで勉強されたが、平尾アウリさんの「まんがの作り方」は良かった。あと同じく平尾アウリさんの「推しが武道館言ってくれたら死ぬ」は面白かったです。とのこと。仲谷鳰さんはプロになってからBLをあまり読んでいない。GLなら、缶乃さんの「あの娘のキスと白百合を」が好きです、とのこと。

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創作上のテクニックについての話が多かった。創作上の葛藤については竹宮惠子さんのほうが多く、時代を切り開いた先駆者としての苦しみを感じた。そしてマンガはポップカルチャーゆえに、時代に先行していなければならない、それが使命だ、というあたりに強烈なプライドを感じた。仲谷鳰さんは時代を切り開く、というよりすでに切り開かれつつある世界で新しいものを作る人としての立場で、やはり新しい価値観を提唱する意思がい案じられた。まだ駆け出しのみでありながら、と語りつつ、理性的に語り、創作者としての姿勢は整理されていることが分かった。プロの凄みというべきか。